下肢静脈瘤とレーザー手術(下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術)
本手術は2011年に保険適用が認められた比較的新しい治療法で、最小限の創で静脈瘤を治せる低侵襲な手術として大変注目されています。 この手術を行う施設と医師は、学会からの認定を受ける必要があります。 長野松代総合病院では2013年4月より下肢静脈瘤に対するレーザー手術を開始し、多くの方にご満足いただいております。 また、当院では2016年5月に、県内でいち早く最新のレーザー装置(ELVeSレーザー1470nm)に更新いたしました。 従来の装置(980nm)よりも術後の違和感(軽度の痛みやつっぱり感など)がかなり軽減され、手術が受けやすくなりました。 さらに当院では、新しいレーザーファイバーによる治療を2019年1月より開始いたしました。 スリム・ファイバーと呼ばれ、以前のファイバーより細くなったことで、手術の負担がさらに軽減し、より幅広い病態にも対応できるようになりました。 このホームページをご覧になり、受診をご検討下さい。 また、本院の「下肢静脈瘤」のページも是非ご参照下さい。
手術の概要
(外径 1.85mm)
下肢静脈瘤の大半は大伏在静脈の弁不全(逆流)によって発症します。 この大伏在静脈を膝下あるいは膝上で穿刺して、レーザーファイバーを鼡径部近くまで挿入し、大腿部の大伏在静脈ほぼ全長にわたって血管内にレーザー照射を行い、大伏在静脈を焼灼します。 焼灼された大伏在静脈はつぶれ、血流はなくなります。 焼灼された大伏在静脈はその後退縮し、半年から1年で吸収されて無くなってしまいます。 大伏在静脈が無くなってしまっても、他の静脈を通って足の奥にある太い深部静脈に流れ込みますので心配はありません。 逆流はなくなり、血液の循環が改善します。 足が軽く感じ、むくみも改善して足が少し細くなることもあります。 立っていても以前のような足のだるさは感じられなくなるはずです。 手術は局所麻酔と静脈麻酔を併用して行います。 当院では日帰りないし1泊入院で行っております。 術後の痛みはほとんどなく、デスクワークであれば手術翌日から仕事復帰が可能です。
血管内レーザー焼灼術の模式図
当院での下肢静脈瘤のレーザー治療の1例
60代の立ち仕事の男性で、左下肢のだるさがあり、当院で左大伏在静脈血管内レーザー焼灼術および静脈瘤切除術を受けました。 術後にだるさはなくなり、静脈瘤も治癒しました。
レーザーファイバー (レギュラー・ファイバー)
当院で使用している波長1470nmレーザー装置では、ファイバーの先端の2か所のリングから全周性にレーザー光が照射されます。 静脈を均一照射できますので出血も少なく、術後の皮下出血がほとんどありません。 波長1470nmのレーザー光を使用しますので、静脈が効率的に焼灼できます。 従来の装置(980nm)では、手術後1~2週間、つっぱり感や軽い痛みなどの違和感を訴える方がいらっしゃいましたが、その違和感が大幅に軽減されています。
スリム・ファイバー
スリム・ファイバーの直径は1.27mmで、通常のレギュラー・ファイバー(1.85mm)より細くなっていますので、より細い針で穿刺が可能です。 また、細い血管や屈曲した血管を焼灼する場合にも対応しやすくなり、きめの細かい治療が可能となりました。 欧米では伏在静脈と深部静脈をつなぐ穿通枝という静脈の治療にもこのファイバーが使われています。 スリム・ファイバーは小さいレーザー出力で治療を行いますので、よりやさしい治療を行うことも可能です。 一方、太めの血管には通常のレギュラー・ファイバーの方が適していますし、高出力で焼灼できるレギュラー・ファイバーの方が治療時間が短いという利点もあります。 当院では、個々の患者さんの病状にあわせて2種類のファイバーを使い分けて治療を行っております。
レーザーによる下肢静脈瘤治療アニメーション
レーザー手術における静脈瘤切除について
レーザーによる大伏在静脈の焼灼に際しては、ほとんど傷は付きませんが、静脈瘤自体は手術時に小さな傷で切除します。 この際、可能な限りスタブ・アバルジョン(stab avulsion)法を行っています。 この方法は2-3mmのごく小さな傷で、特殊な器具を使って静脈瘤を切除します。 縫合の必要はなく、傷痕も目立ちません。但し、重症の静脈瘤はこの方法では切除できない場合があります。 その際は6-7mmほど皮膚を切開しています。 切開した皮膚は縫合しますが、溶ける糸で内側から縫いますので、抜糸は必要ありません。 浮き出ていた静脈瘤はほとんど目立たなくなります。硬化療法を追加することもあります。 本手術は美容手術ではありませんが、手術後の傷は少しでも目立たない方がより満足していただけるのではないかと考えています。
下肢静脈瘤の再発について
下肢静脈瘤の再発は稀ではありません。 再発の原因を大きく分けると、治療したところとは別の部位から再発が起こる場合と、以前治療した部位から再発してくる場合があります。 前者の場合は、比較的容易に治療が可能の場合が多いと考えられますが、後者の場合には治療が難しく、より経験豊富な医師による診断や治療が必要となる場合があります。 また、後者の場合には、初回の手術方法が当時の病状に適していなかったことも一因となることがあります。 前述した高位結紮術では再発率が高く、現在では行われなくなりました。 しかし、患者さんにとっては、いずれにせよ「手術したのに、また出てきた」とがっかりしてしまい「手術をしても、また出てくるのでは?」と諦めてしまう方もいらっしゃるようです。 そんな方は是非、当院を受診していただきたいと思います。 当院では、高位結紮術やストリッピング手術、血管内焼灼術などで治療した後に再発した患者さんにも、積極的にレーザーを用いた血管内焼灼術を行っております。
再発の少ない下肢静脈瘤治療をめざして
レーザー治療をはじめとする血管内焼灼術にも再発はある程度認められます。 欧米ではその再発率が治療後5年で20~30%程度と考えられており、治療しない部位を含めると50%近くになると考えられています。 一方、日本人についてはデータが少ないため、はっきりとしたことは言えませんが、当院の成績では欧米の患者さんに比べるとかなり再発が少ないと思います。 当院ではこれまでの経験を生かし、再発の少ない血管内治療をめざし、日々治療法を工夫しながら治療を行っております。
当院でレーザー手術を受けた方々の内訳
2013年4月から2018年12月までの5年8ヵ月の間に、642件の下肢静脈瘤のレーザー手術を当院で行いました。 3分の2の方が女性で、年齢は16~92歳、平均63歳でした。 左右差はほとんどなく、8割以上の方が大伏在静脈の弁不全が原因でした。
当院心臓血管外科がテレビに出演しました
2015年2月3日放送の、テレビ信州「ゆうがたGet!」において、「結構知らない、血行の話」と題し、下肢の血行障害が取り上げられました。 冷えとむくみを中心に、当科の医師が病状や対処方法について説明をしました。 その中で、むくみの原因となる下肢静脈瘤の病態を解説しておりますので、ご参照ください(尚、多少編集してありますことをご了承ください)。