下肢静脈瘤の治療について
下肢静脈瘤とは
心臓から足に送られ、使い終わって汚れた血液は「静脈」を通って心臓に戻ります。 立っていると、重力に逆らって足から心臓方向に血液を送る必要があるため、「静脈」にある弁により、一度心臓方向に上がった血液が逆戻りしないようになっています。 太ももや足の付け根のあたりの静脈(主に大伏在静脈)の弁が壊れると逆流が生じ、足に血液が溜まってきて、静脈がこぶのように膨らみ浮き出てきます。 足に静脈血が停滞するため、以下のような様々な症状を引き起こします。
下肢静脈瘤の誘因
下肢静脈瘤の三大要因は、
(1) 立ち仕事
(2) 妊娠・出産
(3) 遺伝
です。
立ち仕事のなかでも、下肢の筋肉を使わない状態、つまり棒立ちの状態が下肢の静脈に最も負担がかかります。
理容師・美容師・調理師・板前さんなどが下肢静脈瘤になりやすい職業です。
また、女性では第2子・第3子を出産された後に起こりやすいといわれています。
親が下肢静脈瘤の方もやはり下肢静脈瘤になりやすいようです。
約7対3の比率で女性に多い病気ですが、男性にも見られます。
日本人の約1割に、成人女性の約4割の人に何らかの静脈瘤があるといわれています。
下肢静脈瘤の症状と合併症
主な症状
下肢静脈瘤の合併症
下肢静脈瘤が進行することによって、血管が浮き出るだけでなく、以下のような治りにくい合併症がでてくる場合があります。
- 色素沈着:皮膚に茶褐色の色が付いてきます。
- 湿疹や皮膚炎:皮膚がざらざらしたり、赤くなったりして、かゆくなります。
- 脂肪皮膚硬化症:皮下脂肪が硬くなります。
- 皮膚潰瘍、出血:皮膚にキズができて治らなくなります。出血することもあります。
- 血栓性静脈炎:静脈瘤内に血液の塊ができて、炎症を起こし、痛みを生じます。
- 肺動脈塞栓症:静脈瘤内にできた血液の塊が、移動して肺動脈に詰まります(稀な症状です)。
下肢静脈瘤の重症度と進行
静脈瘤の進行は比較的緩徐で、年単位から10年単位で軽症から中等症あるいは重症まで徐々に進んでいくのが一般的です。 破裂して死亡することは通常ありません。
軽症

患者さんの多くは「足の血管が浮き出ている」という美容的な悩みや将来的な不安で外来を受診されます。 症状は軽いか、全く自覚がない方もいます。静脈エコーで逆流の有無を確認すると良いでしょう。 病状により治療が必要となりますが、様子をみることも可能です。
中等症

皮下の血管の蛇行に加え、前述したような様々な自覚症状がでてきます。 軽度の色素沈着や皮膚炎を合併していることもあります。 重症例になる前に治療が必要です。静脈エコーを受けて、静脈瘤の原因を調べ、治療法を選択しましょう。
重症

下肢静脈瘤を放置すると色素沈着は著明となり、難治性の皮膚炎を発症したり、皮膚が壊れ、皮膚潰瘍となり処置がとても困難となります。 また、根治術を施行しても、元のきれいな皮膚に戻ることは稀で、色素沈着が改善するためには何年も時間を要します。 このような状態になる前に、根治術を施行することをお勧めします。
特殊な静脈瘤

陰部静脈瘤(骨盤内静脈型)
この静脈瘤は主に30代から50代の女性に見られ、外陰部から内股に静脈瘤ができて、大腿内側に広がるタイプと後面に広がるタイプがあります。
妊娠中のものは出産後に軽減するか消失することが多いですので様子をみてください(ストッキングを履く方もいます)。
大伏在静脈の逆流はなく、内腸骨静脈などの骨盤内静脈からの逆流が原因で、静脈瘤に一致した痛みが出ることがあります。
このタイプの静脈瘤は硬化療法が良く効きます。
しかし、この静脈瘤は骨盤内静脈うっ滞症候群(骨盤内うっ血症候群)に伴って現れる場合があります。
本症候群は骨盤内の静脈(卵巣静脈など)が逆流を起こすことにより月経困難、下腹部痛、外陰部痛などを来す疾患で、陰部静脈瘤や大腿の静脈瘤を発症することがあります。
重症例では、骨盤内静脈塞栓術(カテーテルで静脈を塞ぐ手術)を行うことがあります。
網目状静脈瘤・くもの巣状静脈瘤
網目状静脈瘤は皮下の浅いところにある直径2~3mmの細い静脈が拡張した状態で、膝の後ろなどにできやすく、血管が青く、網の目のように浮き上がっているように見えます。
くもの巣状静脈瘤は皮膚に近い直径1mm以下のごく細い静脈が拡張した状態で、太ももなどにできやすく、赤紫色の血管がクモの巣のように放射状に広がって浮き上がっているように見えます。
網目状静脈瘤もくもの巣状静脈瘤も、一般的には無症状のことが多く、治療の対象となることはあまり多くはありません。
ただし、外見上でお悩みの方には後述する硬化療法を行っております。
下肢静脈瘤の検査方法

下肢静脈瘤の検査は、超音波を使用した「下肢静脈エコー検査」を行います。
この検査で、どこの静脈にどの程度の逆流があるかを調べ、治療の必要性やその方法を判断します。
通常、立った状態で、下肢にゼリーを塗りそこに超音波発信器(プローブ)を軽くあてるだけで、痛みはありません。
ふくらはぎをもんで、逆流の有無を見ます。
検査時間は、患者さんの病気や状態等で異なりますが、片足約10分程度です。
◎検査時には、短パンに着替えていただきます。
下肢静脈瘤の治療方法
下肢静脈瘤には様々な治療方法があります。病状にあわせて、適切な治療法を選択することが重要です。
(1)理学療法(運動療法など)

下肢静脈瘤が軽度の方は、以下のような対策をとることで、ある程度進行を遅らせることが可能な場合があります。 まず、毎日ふくらはぎの筋肉を使ってよく歩くことをお勧めします。 太り過ぎは腹圧が高くなりますので、気をつけて下さい。 ハイヒールはあまりよくありません。 体を締め付けるような下着も避けて下さい。 立ち仕事の方は、1~2時間に一度休憩を取るように心がけて下さい。 その際は足を少し高くして休むことをお勧めします(例えば椅子を二つ用意して片方に座り、片方に両足を乗せるなど)。 立ち仕事中も棒立ちはできるだけ避けて、なるべく歩く、足踏みをする、爪先立ちをするなど、ふくらはぎの筋肉を使うようにしましょう。 椅子に座っている時も、長時間同じ姿勢を取り続けないようにして下さい。 臥床するときは、足を体より少し高くすると効果的です。 これらのことは、下肢静脈瘤の予防にもつながります。
(2)弾性ストッキング

医療用弾性ストッキングは、普通のストッキングとは違う特殊な編み方で、足を強く圧迫するように作られています。
静脈瘤を含めた表在静脈をしっかり圧迫することで、血液が心臓に戻りやすくなります。
自分の体に合ったサイズと強さの弾性ストッキングをしっかり着用すれば、静脈瘤の進行はある程度止まりますが、静脈瘤が治ることはありませんのでご了承ください。
ただし、静脈性潰瘍には欠かせない治療法です。また、当院では血管内治療や硬化療法の際に使用していただいております。
この他、下肢静脈瘤以外にも、難治性の浮腫や表在性静脈血栓症、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)の治療や予防にも有効です。
このストッキングは締まる力が強いので、履くにはコツがいります。
逆に簡単に履けるストッキングはあまり効果がないと考えて下さい。
長期に着用する場合には、半年ほどで買い換える必要があります。
ストッキングの圧迫圧の強さは3段階ありますので、病状に合わせて医師が選択します。
また、ハイソックスタイプ、ストッキングタイプ、パンティストッキングタイプなどがありますが、多くの場合ハイソックスタイプ(写真)で対応が可能です。
看護師が足のサイズをお計りしますので、担当医師や看護師にご相談ください。
当院では、「弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター」と呼ばれる、日本静脈学会から認定された資格を有する看護師が、正しい着用の仕方などの指導や専門的なアドバイスを行っております。
(3)硬化療法
下肢静脈瘤に直接に硬化剤(ポリドカスクレロール:糊のようなもの)を注入し、静脈瘤が押しつぶされるように圧迫します。
外来で行い、歩いて帰宅できます。通常、痛みもほとんどありません。
硬化剤の濃度は3種類あり、薄いものから始め、効果が不十分な場合、何回か繰り返して治療することもあります。
当院では硬化剤と空気や二酸化炭素を混ぜ合わせて泡状にした硬化剤(写真)を使用する「フォーム硬化療法」と呼ばれる、効果的な新しい治療法を行っています。
痛みもほとんどなく、外来で簡単にできる反面、ある程度再発があります。大伏在静脈や小伏在静脈に逆流がないか軽い下肢静脈瘤に行っています。
前述した陰部静脈瘤には効果的です。また、網目状静脈瘤やくもの巣状静脈瘤にも本治療を行うことがあります。
(4)血管内焼灼術

本治療が現在では主流の治療法です。局所麻酔で皮膚を穿刺して、伏在静脈の中にファイバーを挿入し、熱で伏在静脈をふさいで逆流を止める血管内治療です。 2011年ごろから日本で保険適用となった治療法で、レーザーや高周波などを使用して血管の内側から逆流している伏在静脈を焼灼します。 当院ではレーザーを使用し、2種類の太さのファイバーを使い分けながら、幅広い病状の下肢静脈瘤の治療を行います。 静脈瘤はごく小さな傷で切除でき、通常、日帰りか1泊入院で治療を行っております。
(5)血管内塞栓術(グルー治療)

本治療が2019年に日本で承認された最新の血管内治療です。 この方法は、伏在静脈の中にカテーテルを挿入し、伏在静脈を圧迫しながらカテーテルの先端から伏在静脈内に瞬間接着剤(シアノアクリレート)を注入して、伏在静脈をふさぎ、逆流を止める治療です。 熱を伴わないこの治療は、周辺組織への影響がレーザー治療よりも少なく、出血斑や疼痛、神経障害などがさらに生じにくいのが大きな特長です。 治療中の鎮静剤は必要なく、局所麻酔もわずかな量であるため、治療後にすぐ帰宅でき、車の運転や仕事も治療直後から可能です。 もちろん保険適用です(「下肢静脈瘤と血管内塞栓術」のページをご参照ください)。
(6)大伏在静脈抜去術(ストリッピング手術)

この手術は皮膚を2ヶ所、数cm切開して、伏在静脈にワイヤーを通して静脈を抜き去ります。
血管内治療が始まる前は、この治療が主流でしたが、現在、当院ではこの手術はほとんど行っておりません。
(図は大伏在静脈を抜去する模式)
(7)高位結紮術

伏在静脈の根本を縛るのがこの治療です。
上記のストリッピング手術の時代にこの治療と硬化療法を組み合わせた治療が一時期流行しました。
しかし、この治療は再発率がかなり高いため、現在では行われることはなくなってきています。
当院では、以前この治療を受けて再発した方に対して血管内治療を行っております。
JA長野厚生連 長野松代総合病院
心臓血管外科