乾癬および乾癬性関節炎の治療
当院における乾癬治療の現況
当院は、乾癬に対する、特に生物学的製剤(バイオ製剤)治療を積極的に行っています。 直接受診された方や紹介で受診された方など、数多くの患者さんが治療を受けられています。 ここでは、乾癬についての解説や、治療についての紹介を簡単に行います。
乾癬とは?
乾癬は、皮膚に厚いかさぶたを伴った赤い発疹ができる病態で、かゆみをしばしば伴います。 全身に幅広く生じることがあり、見た目の悪さから行動に制限がかかってしまう患者さんもおられます。
乾癬の合併症
乾癬には様々な合併症を伴いますが、最も見かけるのが、乾癬に伴う関節炎です(乾癬性関節炎)。
乾癬性関節炎
関節リウマチにも似ていますが、病態は全く異なっていることがわかっており、進行すると関節変形を来すことから、注意が必要な病態です。
初期症状は、
- 起床時など動かし始めるときに手や指の関節がこわばった感じがする
- 腰が重いような感じがするが、動かしていると気にならなくなる
のようなものが多く、通常の関節炎では、動いているときに痛くなりやすいのに対し、安静にしているとかえって痛みが強くなる特徴があります。 30~40代で発症する場合が多いようです。
乾癬がメタボリックシンドロームと関連していることも有名で、乾癬の発疹から放出される化学伝達物質が脂肪細胞を刺激し、インスリン抵抗性~糖尿病を生じたり、高血圧や血管障害(心筋梗塞など)の原因になったりしていることがわかっています。さらに、脂肪細胞が放出する物質が乾癬を悪化させ、スパイラルのように状態が悪くなっていく傾向があることも指摘されています。
これに関連して、慢性腎臓病や心臓病(狭心症や心筋梗塞)のリスクが高くなることもわかっており、イギリスの研究では、寿命が5年短くなっていたと報告されています。
このほか、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、目のブドウ膜炎、うつ病などのリスクが上がることも知られています。
乾癬の治療
乾癬治療の基本はやはり外用剤で、ステロイド外用剤とビタミンD3外用剤を組み合わせて使用するのが一般的です。 ただ、両者を混合すると、特にビタミンD3が失活しやすく、別々に塗ることが推奨されていました。 そのため、ただでさえ外用に時間がかかるのに、2種類の薬を時間を分けて別々に塗る必要があり、なかなか続けるのがおっくうになりがちでした。
数年前に、ステロイド外用剤とビタミンD3外用剤を適切に混合した薬が登場し、1日1回の外用で済むことから高い効果を認めています。 その後、油性ローション製剤やフォーム(泡状タイプ)製剤が登場し、使い勝手がさらに良くなりました。 このほか、シャンプータイプの薬などもできており、効果的で効率の良い外用を続けやすくなっています。
ただ、全身に幅広く皮疹がある場合は、外用剤のみでは十分な効果を生みにくいのも確かです。そのような場合、
- 光線療法:PUVA療法・ナローバンドUVB療法・エキシマライトなど
- 内服療法:シクロスポリン(ネオーラル)・メトトレキサート(リウマトレックス)・アプレミラスト(オテズラ)・デュークラバシチニブ(ソーティクツ)、ウパダシチニブ(リンヴォック)など
- 生物学的製剤:多数あり
などの治療があります。とくに、生物学的製剤(バイオ製剤)は、その高い効果から注目されており、今まで治りにくかった乾癬がきれいに治るケースが出てきています。さらに、関節症状を伴う場合は、外用剤や光線療法では関節炎を抑えることはできませんので、内服治療やバイオ製剤が不可欠です。
バイオ製剤の種類
全部で3種類11剤が認可されています。当院では、11剤すべて使用できる体制を整えております。
抗TNF-α製剤
- インフリキシマブ(レミケード)
- アダリムマブ(ヒュミラ)
- セルトリズマブペゴル(シムジア)
※3剤が認可されており、特に関節症に高い効果が認められています。皮膚症状の改善は一般に緩徐であることが多いです。
抗IL-17製剤
- セクキヌマブ(コセンティクス)
- イキセキズマブ(トルツ)
- ブロダルマブ(ルミセフ)
- ビメキズマブ(ビンゼレックス)
※4剤が認可されており、皮疹を速やかに改善させるほか、関節症状にも一定の効果が認められています。
抗IL-23製剤
※4剤が認可されており、8~12週毎の投与で良いため、治療の間隔を延ばすことができます。また、皮疹を確実に改善させる効果が認められているほか、関節症状に対する効果が確認された薬もあります。
JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤・TYK2(チロシンキナーゼ2)阻害剤
JAK阻害剤は関節リウマチに先行して使用されていた内服薬で、リンパ球などの炎症細胞に直接作用することにより、炎症に関わる各種のサイトカイン(炎症を起こす化学物質)を抑制し、強力な抗炎症作用を発揮します。 バイオ製剤によく似た効果を認めるため、新たな治療手段として注目されています。 乾癬では、ウパダシチニブ(リンヴォック)が乾癬性関節炎に対して、デュークラバシチニブ(ソーティクツ)が尋常性乾癬に対して使用できます。
乾癬治療上の注意点
乾癬はたばこで悪化することが指摘されていますので、治療中は禁煙が不可欠です。 また、過体重が病気の悪化につながっていることもわかっていますので、体重のコントロール、具体的には"減量"が効果的です。
メタボリックシンドロームの他、眼のブドウ膜炎やうつ病、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)のリスクが高まることも知られています。 症状に応じて、内科(循環器・消化器科など)や心療内科、眼科、整形外科やリウマチ科などでも適切な相談をすることが必要です。
※乾癬でお悩みの方、バイオ治療を受けてみたいとお考えの方、皮膚科までご相談ください。なお、受診にあたっては、現在の診療医からの紹介状があると、治療などの状況を確認できますので、円滑な治療につながります。