整形外科後期研修ダイジェスト

手術室編

私たちは整形“外科医”です。その神髄も、手術室にあるといって過言ではありません。ここで何よりも求められるのは、「当たり前のことが当たり前にできる」ことです。とにかく、基本的なことが徹底的に指導されます。このことに関しては、世界的に知られる脳神経外科医の林成之医師が「突き抜けるような反復練習」の重要性を強調していることと共通点があります。繰り返しになりますが、当院の手術室においては、速くて正確な糸結びはもちろんのこと、メスの握り方の基本、正しいハサミや筋鈎の使い方までもが徹底して教え込まれます。こういうことは近年誰も教えてくれなくなりましたが、古い外科の技術書などでは細かく記載されてきたことであります。患者さんで練習するというわけにはいきませんので、研修医用の縫合練習器でしっかりと練習を積んで、実戦デビューまでに速くて正確な縫合ができるようになってもらいます。当院に手術見学に来た先生方は、異口同音に手術の手際の良さと正確さを絶賛しますが、それが可能であるのは基本がしっかりとできているからなのです。そしてまた、次に述べる助手の技術力の高さです。

手術室は真剣勝負の場であるので、外科医自身の高度な技術力と精神力に加え、とにかく準備を怠らないことが求められます。術者に求められるまで何もせず、「動かざること山の如し」という手術助手をしばしば見かけますが、当院では術者が動く前に助手が動きます。「術者が次に何をしようとしているのか」を常に先読みしているのです。器械出しの看護師も同様です。手術室にいる人間全員が積極的に手術に参加しています。これには日頃からの心構えが肝心です。当院で手術助手をする人間には、「いつ自分が術者に交代を求められても、全く動揺しない」くらいに、常に心の準備ができていることが求められるのです。

実際、そのような姿勢が指導医から評価されるようになれば、当院では年齢や経験に関係なく術者に任命されます。もちろん、患者さんは研修医の練習台ではないので、その貴重なチャンスを生かせなければ、すぐにでもメスは没収されて、再び筋鈎が手渡されますが。

手術自体の話ですすめましたが、そもそも外科医に求められるのは、まずは手術適応と術式の選択です。その前にはもちろん、正確な診断ができることです。「腰のヘルニアだと思って手術したけど、切ってみたら全然違ったよ。今度は別の手術をしてみましょう。アハハハ」という前時代的なノリは、現代医療では通用しません。正確に診断をつけ、治療方針を検討し、最終的には全体討論を経て手術の必要性と術式を決定するのが、現代医療です。そういう意味では、当院での手術は毎週水曜日に行われる術前カンファランスから始まります。医師・看護師・放射線技師・理学療法士・作業療法士が集まって臨床所見や画像を検討し、治療方針を最終的に決定します。ここでのプレゼンテーションは後期研修医の重要な任務です。厳しい突っ込みに耐えながらのプレゼンテーションは、医師に必要なプレゼンテーション能力と、MRIやCTも含めた画像所見が説明できるスキルの養成に劇的な効果をもたらします。

最後になりますが、当院整形外科は人工関節置換術の手術件数では日本有数であり、その手術成績は国内外からも高く評価されています。看板である人工関節手術を初め、当院ではいろいろな手術が行われています。参考までに、2010年度(2010年4月-2011年3月)の当科における手術実績を以下に示します
(注:膝関節鏡と靱帯再建手術など、一部重複してカウントされています)。

  1. 人工膝関節全置換術(TKA) 141例
  2. 人工膝関節単顆置換術(UKA) 69例
  3. 高位脛骨骨切り術(HTO) 29例
    • opening wedge 26例
    • closing wedge 3例
  4. 人工股関節置換術(THA) 54例
  5. 人工肘関節置換術(TEA) 2例
  6. 膝靱帯再建術
    • 前十字靱帯(ACL)再建 76例
      • STシングル7例
      • 解剖学的2ルート64例
      • BTB5例
    • 後十字靱帯(PCL)再建 1例
    • 内側大腿膝蓋靱帯(MPFL)再建 4例
  7. 関節鏡視下手術(半月板断裂・関節ねずみなど)
    • 膝関節鏡 349例
    • 肩関節鏡 22例
    • 肘関節鏡 1例
    • 足および距骨下関節鏡 3例
  8. 足関節固定術 6例
  9. 肩関節制動術 3例
  10. 肩腱板縫合術 28例
  11. 脊椎手術
    • 頚椎前方手術 9例
    • 頚椎後方手術 33例
    • 胸腰椎前方手術 1例
    • 胸腰椎後方手術 118例

その他、大腿骨頸部骨折・転子部骨折・四肢骨幹部骨折・四肢関節内骨折・バネ指・手根管症候群・肘部管症候群など、年間1,200件程度の手術があります。

縫合練習器 日頃から縫合練習器でトレーニングを。 ハサミや筋鈎の使い方 ハサミや筋鈎の使い方も厳しく指導されます。 手術カンファランス 毎週水曜日夕方からは手術カンファランス。
厳しい指導と活発な意見交換が行われます。

TKAの例 TKAの例 UKAの例 UKAの例 Opening wedge HTOの例 Opening wedge HTOの例